萩原雪歩生誕祭 虚 2013年12月24日 雪歩の誕生日といふことで一寸SSでも書いてみようと試みる。ネタ元はヤシPのTwitterポスト。ちなみにゆきちはちはゆきです(改めて讀み返してみたらどうみてもちはゆきです本當に以下略)。百合です。お讀みになる際は豫めご諒承ください。批評批判は受け付けますがクレームは受け付けません。あと本文は現代假名遣ひですのでそこはご安心を。 『雪のネックレス』如月千早という人の第一印象は、正直「ちょっと怖い人」だった。雪歩はふと思い出す。もう1年半も前になるだろうか。頑なさや無関心、冷たさと見えたものが、秘めた情熱と単なる不器用さの産物だと気付いたのはいつ頃だったか。「お疲れさま、萩原さん。良いステージだったわ」そんなことを考えながら楽屋に戻った雪歩をその当人が出迎える。一足先に私服に着替え終わったところのようだった。「千早ちゃんもお疲れさま。今日はこれで上がり?」「ええ。これから事務所に戻るところ。萩原さんは──」そこで壁の時計に目を遣り、雪歩に視線を戻す。「うん、この後もう1本あるけど、きっと間に合うから。プロデューサーやみんなが頑張って空けてくれたスケジュールだもん」千早はそうね、と頷く。切れ長の目元が微かに和らぐ。ところで、と千早が真顔に戻る。まあ千早ちゃんはだいたいいつも真顔だけれど、と思いながらもつい雪歩も真顔でどうかしたの? と問い返す。「衣装替えまで少し時間あるかしら」「そうだね。次まではちょっと間があるから大丈夫だよ」じゃあ、と言って物問いたげな雪歩の視線を背に、鞄を探り小さな包みを取り出し、向き直ってためらいがちに差し出す。「これ……」意味を理解するまでに一瞬の空白があった。「えぇっ!? これ、私に!? えっと、千早ちゃんから、あの、ぷ、プレゼント?」そんなに驚くことかしら、と軽く睨む千早に慌てて、そういう意味じゃなくて、としどろもどろになりつつ、手のひらに収まる大きさの包みをそっと両手で受け取る。「……これ、今開けてもいいかなぁ」「もちろん。そのつもりで今渡したんだもの」包装紙を丁寧に開いてゆくと中には白い布張りの小箱。そっと蓋を開ける。ぱちん、と微かな音。思わず、わぁ……と吐息交じりの歓声を上げた。「……雪の結晶だぁ」細いチェーンに雪を象った小さなシルバーのペンダントトップが付いたネックレス。「『雪歩』だから雪、というのは安直だったかしら」「そんなことないよ嬉しいよ! ありがとう千早ちゃん!」少しだけ不安げな千早の瞳、その色を振り払えとばかりに雪歩は首を振り、ペンダントをぎゅっと握りしめる。「良かった。私はこういうものには疎いのだけれど、シンプルなデザインだから使いやすいかと思って」雪歩の様子に千早の顔がほころんだ。「嬉しいなぁ……ねぇ千早ちゃん、これ今着けてみてもいいかなぁ? ちょうど今の衣装も雪のモチーフだから合うと思うんだ」「ここでならね。ステージには着けていけないでしょうけれど」じゃあ……と雪歩は一息置いて「これ、千早ちゃんがかけてくれたら……嬉しいなぁ」その言葉に瞬間、目を見開いた千早はすぐにふふ、と笑って「まあ、今日は特別だから」とネックレスを手に取った。千早の腕が肩に回る。ひんやりした銀の感触と、次いで同じように冷たい指先が首の後ろに触れる感覚。呼吸の聴こえる距離。少し早くなっている鼓動は気付かれているだろうか。慣れない手付きでチェーンを留める時間がやけに長く感じられた。「はい、できた」顔を上げると普段と変わらない表情の千早と目が合う。気付いてないなぁ、と思い、ほっとしたような少しがっかりしたような、何となくこそばゆい気分になる。「似合ってるかな?」「ええ、素敵だと思う」まあ私はあまりファッションには詳しくないからよく判らないけれど、と千早は言葉を継ぐ。どうしてこの人はこう一言多いのだろうと思いながら、そんなところもなんだか楽しくて雪歩はえへへ、と笑う。「ありがとう、千早ちゃん」千早も微笑んで、今日は特別だもの、と繰り返した。「誕生日おめでとう、萩原さん」鞄を手に、先にみんなと事務所で待ってるわ、と告げる千早にまた後で、と手を振る。雪歩もそろそろ衣装替えの時刻が近付いている。冷たかった雪のネックレスは、今は体温が伝わりあたたかい。もう1度ぎゅっと握ってみる。第一印象は「ちょっと怖い人」だった。今は。「千早ちゃん、ありがと」そっと呟いた。 PR